我々の研究室では、酵素を中心とした生物のエネルギー利用システムを活用し、生体分子を目的に応じて組織化することで、温室効果ガス、特に二酸化炭素を資源として積極的に活用する新たな物質変換システムの創出に取り組むことで、生物的アプローチによる「カーボンネガティブ」の実現を目指したエネルギー研究を推進していきます。
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〇生物システムを用いた物質変換反応の魅力
生物は生物触媒である酵素を利用することで、常温常圧という穏やかな条件下で多彩な物質変換を実現しています。一方、工業プロセスでは、高温・高圧条件や金属触媒のように大量のエネルギー投入や資源消費を伴います。このように、生物システムは工業システムとは対照的で、「低エネルギーコストで高効率である」という魅力があります。
また工業システムは、特定の燃料(石炭、石油、天然ガスなど)への依存度が高く、資源枯渇や環境負荷の問題が指摘されています。これに対し、生物は光合成によって無尽蔵のエネルギー源である太陽光を直接利用したり、有機物や無機物を柔軟に資源化することで、多様で持続可能なエネルギー利用を実現しています。さらに、生物の代謝には廃棄物を次の生命活動の資源として循環させる仕組みがあり、自然界全体で閉じたループを形成していますが、工業システムではしばしば廃棄物や副産物が大量に発生するため、その処理にコストと環境負荷がかかることが大きな懸念点になっています。
加えて、生物のエネルギー利用は、単に「燃料を消費して出力を得る」という工業的な単線的なシステムではなく、情報システムと一体化している点でも際立っています。生物内のエネルギー代謝は、生物内の環境変化に応じて動的に調整され、成長・分化・ストレス応答といった高度な制御と結びついています。
これは人為的に設計する人工システムではまだ十分に再現できない精緻さがあり、大きな魅力の一つです。
このように生物のエネルギー利用システムは、工業的システムと比べて「低エネルギー条件での高効率」「多様で持続可能な資源利用」「循環型の廃棄物処理」「情報と統合された柔軟性」といった点に大きな魅力があり、現代社会における持続可能なエネルギー利用システムの設計に向けた重要な示唆を与えてくれます。
〇スケールに応じた反応場の存在
生物のエネルギー利用システムは、水中・常温・常圧という限られた温和な環境の中で並行して進行する無数の化学反応(代謝反応)によって成り立っています。この一つ一つの化学反応を担っているのが、生体内触媒である酵素です。酵素が持つ温和な条件で複雑な化学反応を触媒できる機能と高い選択性がその根幹を支えています。
さらにこれら化学反応が、分子内(Å~nmスケール)・分子間で形成される複合体(超分子構造体)や高次組織体(小器官) (nm~μmスケール)・細胞(μmスケール)・個体(mm~mスケール)に至るまで、スケールに応じた異なる「反応場」によって動的に制御され、複雑に関与しあっています。すなわち、生物のエネルギー利用システムの秀逸さは、スケールに応じた異なる戦略に基づいた反応場の存在によるものです。
〇研究方針
我々の研究グループでは、このような秀逸な生物のエネルギー利用システムに倣い、スケール毎に異なる戦略によって生物内化学反応を制御することで、化学エネルギーを活用するクリーンで高効率なエネルギー利用システムの実現を目指しています。特に、現在は、生物内化学反応の中でも二酸化炭素を固定化する代謝反応に注目し、その反応をエンジニアリングすることで、高付加価値な有用物質の合成をおこなうことを目指して研究を進めています。(※研究成果が公開可能となり次第順次更新していきます)